2011年4月1日に種の保存法「国内希少野生動植物種」に指定され、ヨナグニマルバネクワガタは採集禁止となりました。下記、採集記は規制以前のものです。 |
2006.11.02(金)へっぽこ遠征in八重山列島(2日目)
石垣島の宿から与那国島へ渡る為にタクシーを使う。本当はレンタカーで石垣空港まで行き1泊停車しておこうと思っていた。しかし、空港の規定で夜間は停車禁止という事になっていたので、仕方なくレンタカーは宿の停めて置き、空港までタクシーで行く事にしたのである。・・・何気なくメーターを見ると初乗りが390円となっている。東京では600円なので、石垣島での初乗り運賃の安さに驚く。
普段あまりタクシーに乗らないので、どうもメーターに目が行ってしまうが、宿から石垣空港までは5分程度なので低料金で到着する事が出来た。何度か訪れている石垣空港であるが、ここから更に別の離島に渡るほど大掛かりな遠征になるとは思ってもいなかった。・・・それだけに意識が高まる。
空港内に入り与那国島行きの手続きを済ませる。荷物はそれほど大きくはないので、与那国島で“荷物出待ち”の時間ロスを防ぐ為に機内持ち込みにした。ちなみに与那国地方の天候を見ると、どうやら天候は晴れではないものの、雨は持ちそうなので一安心である。
その後、特に問題もなく飛行機に乗り込み石垣島を後にした。
石垣島を発ってから約30分足らずで与那国島が見えてきた。・・・ここに来て、何と言うか“自分が自分ではない”感覚というか緊張感が出て来た。「どうしてもヨナグニマルバネを確認してみたい!」という気持ちと「ここまで拘る必要はあるのか?」という気持ちが交差している。どちらにしても「ここまで来たのだからやるだけ頑張ってみよう!」と気合いを入れ直し、今晩一晩だけのワンチャンスに集中すべくイメージトレーニングをして行く。
そして遂に与那国島到着。・・・与那国の風を受け、武者震いの様な感覚を覚える。まずはレンタカー屋にて手続きを済ませ、レンタカーを走らせる。
・・・と、山に直ぐに向かおうと思ったが、来年以降の遠征は全く白紙状態であり、もしかすると“最後の与那国”になるかも知れなかったので、与那国島の島内を回って気持ちを落ち着かせる事にした。逆を言えば島内を回り与那国島を感じる事で、自分と与那国をシンクロさせたい気持ちもあるのかも知れない。 まずは“志木那島”「Dr.コトー診療所2006」の舞台となっている診療所を訪れてみた。昨年は無かった旗がなびいている。
次にNHK大河ドラマ「琉球の風」の舞台となった碑を見る。・・・しかし、このドラマを観ていないのでイマイチ感情移入できない。
そして最後に日本の最西端の地に足を運ぶ。・・・崖の近くまで行くと、目の前は海。今、日本の一番最西端に立っているのは自分。すなわち与那国島に居る事を実感する。「そう!ヨナグニマルバネを自分の目で確認する為“日本最西端の地”に来ているのだ!」と完全にスイッチが入った。
時計を見ると昼時である。少々腹も減ったので昼食にする事にした。一応、島内のスーパーにも立ち寄ってみたが、やはり惣菜になるような物は売っていなかった。勿論、与那国入りする際はそれを想定していた事なので、石垣島にて購入しておいた「サーターアンダギー」を食べる事にした。本当はもっと食事らしい弁当を持参しても良いと考えたが、南西諸島という事もあって“暑さで弁当が痛む恐れ”もあったので、持ちの良さそうな食べ物を持参する事にしていた。・・・サーターアンダギーを食べてみる。ご存知の方も多いと思うが、“沖縄のドーナツ”という感じであろう。ただ飲み物がないとパサついて食べ難いかも知れない。
昼食終了後は、いよいよ採集地の下見を行おうと車を走らせる。・・・しかし直ぐに渋滞にハマってしまった。原因は島中に放牧されている牛であった。こちらの車の事などお構いなしで自由気ままに過している。これが東京の車であればイライラするかも知れないが、相手が牛であれば仕方が無い。逆に長閑で癒される一瞬でもあった。
先月から目を付けて置いたポイントに車を走らせながら、「これが本当に最後のチャンス」と感じながら、いつもの“へっぽこ”らしからぬ、心地良いプレッシャーを自分自身に浴びせ掛けて行く。不思議と島内観光を行なったせいか、心が洗われた様な清々しい気分になっていた。
一晩しかチャンスは無いので自分なりに一番可能性が高そうな場所を選ぶ事にした。まずは夜の為に下見を行なう。やはり昼間と夜間では“同じ場所でも絶対的に視覚効果が失われる”ので、身の安全を考えると下見は行っておいた方が良いと思う。昼間の明るい時間帯に下見を行うことで、樹液の出ている場所なども確認しておけば、より効率が良くなるはずである。・・・それにしても先月以上に下草が伸びていて歩き難い。草の種がズボンにしつこい位に付いて来る。ポジティブに考えれば、他の採集者が入っていない場所という見方も出来るであろう。
明るい内に様々な場所を確認しておこうと、森の奥深くへ歩を進めていく。・・・いくつか丘や谷を越えていく。昼間であっても森の中は薄暗い場所も多いので、常に方位計と地図を見ながら自分の位置関係を把握していく。与那国島は猛毒蛇のハブは居ないが、それ以外の崖からの転落や怪我などの懸念は常に付きまとう事を忘れていけないと思う。過信の結果、事が起こり1人ではどうする事もできない状況になってからでは遅いのである。 ・・・因みに今回の場合、昼間にも拘らず途中で迷う感覚を覚えてしまった。やはり山に入る場合、慎重過ぎるくらいで良いと思っている。
下見だけでも数時間かかってしまった。しかし今回は、それだけ“本気モード”になっているのかも知れない。日も傾き始めたので、一度レンタカーに戻り仕切り直しをする事にした。夕食は石垣島より持ち込んだ“おにぎり&魚肉ソーセージ”。やはり与那国島では食事に苦労する。東京の便利さに慣れてしまったツケか、もっと島内を探索して食事のできる場所を確認したほうが良いのかも知れないが、気軽に入れそうな店が少ないので、どうしても消極的になってしまう。辺りが暗くなり始めた車内で食事を進める。・・・どうやら、おにぎりは痛んでない様だ。
食事を終える頃には辺りは完全に夜の帳が降りていた。因みに今回も“もしも”に備えて山に入る際、飲み物と魚肉ソーセージを数本リュックの中に持参する事にした。
いよいよ“最後の挑戦”の時がやって来た。大げさと思われてしまうかも知れないが、“へっぽこ”なりに、“男”として30余年生きてきて、指折りの真剣勝負と言えるだろう。“へっぽこ採集記”らしからぬ雰囲気かも知れないが、自分なりの覚悟を決めて漆黒の闇の中へ歩を進めていく。
・・・しかし、様子がおかしい。 ・・・昼間に下見した通り進んでいるはずであったが、どうやら方向を間違えてしまった様なのである。・・・やはり夜の山は怖い。今回に関しては慎重に慎重を重ねて夜の与那国に挑んだはずだったのに、またしても予定とは違うルートに入ってしまった。幸い、山の入口からそれほど入っていなかった事と、迷いながらの探索では気分的に集中も出来ないので、自分なりに考えておいた“脱出ルート”をコンパスと地図を使用し、一度林道まで戻る事にした。
予定コースを外してしまった事で、随分と時間のロスをしてしまった。その間、他の採集者とニアミスした。・・・他に採集者が入っているという事はポジティブに捉えれば、時期としてはまだヨナグニマルバネの活動時期と言えるのだろう。自分の場合は個体の大きい小さいではなく、ヨナグニマルバネというクワガタを1頭観る事が出来れば、それだけで満足なのでひたすら目標に向かって探索を続けていく。
・・・山に入って数時間が経ったのだろう。定期的にコンパス(プロトレック)と地図を用いて、現在地を確認しながら下見した場所を進んでいく。 元々、下見だけでも数時間掛けて山の奥に入った場所なので、夜間ともなれば足場の確認からシイの樹の確認まで、より時間は掛かってしまう。しかし、それは仕方の無い事で“第一に安全の確保を行い”その上で歩を進めていく形になる。 それにしても虫の気配が感じられない。流石に11月の与那国ともなれば夜間は涼しく、森全体が静まり返っている。・・・ふと、急に寂しく感じる。「本当にヨナグニマルバネは活動しているのだろうか?もしかすると見当違いな場所を探しているのではないか?」と少々弱気にもなってくる。・・・夜間の山に入るには「弱気なくらいでちょうど良い!」と思いながらも、この一年間“へっぽこ”なりに温めて来た企画(与那国遠征)なので、「偶には自分自身と正面から向き合い、そして自分の思ってきた事を信じてみよう!」と自分を励ましまがら“男のロマン”を求めて探索を続けていく。
・・・探索を続けながらも数時間、それでも何一つ手がかりが見付からない。 「自分にとってクワガタ採集とは何なのか? 自分は飼育も標本も勿論、売買にも興味が湧かない...。」 「高い飛行機代を払って離島にやって来て、結果はボ〜ズ。運良く採集出来てもリリースしてしまう。」 「・・・自分にとってクワガタ採集とは何なのか?」 「・・・・・。」 「・・・良く分からないが、今は探索に集中しよう。」 「・・・ヨナグニマルバネを確認できた時に、何か答えが出るかもしれない。」 ・・・そう思い、体力を消耗しながらも丘や谷を越えていく。 ・・・その行き着く先には、何があるのだろう? 普段の採集であれば、とっくに諦めているはずであるが、今回に関しては「気持ちだけは負けたくない!」という思いの方が遥かに上回っていた。
そして遂に・・・ それほど太くないシイの樹の頭上3メートル位の場所に、何か黒い塊が張り付いているのが確認できた。 昨日も石垣島でヤエヤママルバネを観ているので、その黒い塊を見間違えるはずは無かった...。
蔦が絡まっているので除けてみると、その黒い塊は自分を待っていたかの様に、こちらをジッと睨んでいるかの様に佇んでいた。そう、目の前に居るのは、夢にまで見た幻のヨナグニマルバネ♂であった。
ライトをあて、その姿を観ているとヨナグニマルバネは逃げる所か、逆に縄張りを主張するかの様に、こちらへ向かって樹を降りてきた。それからどの位の時間、このヨナグニマルバネを観ていたか判らないが“時が止まった様な感覚”で、個体が動き出すまで永遠と眺めていた様な気がした。
以前もこんな気持ちになった事があったが、今の気持ちを例えると“無の状態”と言う表現が思い当たる。 それは決して無反応という事ではなく、“ここに辿り着くまでの道のり”を考えると、自分なりに頑張れた“充実感”があり、“達成感”から来る“安堵感”もあるのかも知れない。その様な感情が一気に駆け巡るので、一種の“フリーズ状態”になっているのかも知れない。 「遂に、、、やれたのかな?」 そんな取り留めない言葉が、ボンヤリと脳裏を過ぎった...。
・・・暫くの間、与那国の山奥でボーっとしていたのだろう。ふと我に返ると、足元で何やらうごめく物が居る事に気が付いた。・・・ヘビだった。・・・ここで改めて気を引き締める。今の自分の感情はどうであれ、ここは夜中の山奥なのである。気を抜いたら危険な事には変わりない。ヘビをやり過ごした後に、再び探索を始める。
と言っても、ヨナグニマルバネ♂×1頭を確認するまでにかなりの体力を消耗していたので、少し休憩を取る事にした。ここに至るまで数時間山に入っていたので疲労が足腰に来ている。飲み物を飲みながら体力回復に努める。一つ深い溜息をついて考える。「・・・すでに山に入って数時間が経過している。体力を考えもうこれで終わりにして山を降りるか、それともヨナマルの生息地にやっとこれたのだから、もうひと踏ん張りするか?」 ・・・正直迷った。しかし少し休憩を取った事で、体力も回復できた気がしたので、もう少しだけ先に進んでみる事にした。
しかし・・・
何とか先程ヨナグニマルバネを採集した場所に戻ってくる事ができたので、「ちょうど良い!この個体をリリースしよう!」と思った。 一般的にみたら“変な採集者”だと思われるかも知れない。ヨナグニマルバネを現地まで採集(3度目の来島)に行き、漆黒の闇の中で迷い、やっとの思いで採集できたヨナグニマルバネ。確かに旅費や時間もかなり費やした。 「だからこそ、あえてリリースしたい!」 元々、採集するまでのプロセスを楽しむタイプなので、「これで良い!」と思っていた。ヨナグニマルバネというクワガタだからこそ、少しでも長生きして、子孫を増やして欲しいと感じた。また、この個体をリリースする事で“自分の採集スタイル”を再確認する良い機会だと思っていた。 リリース直前、ヨナグニマルバネを指に乗せ眺めてみる。 ・・・予想以上に赤くて格好良い! 大歯型ではないが美しいフォルムだと感じる。記念にサイズを測ってみると51.1_であった。 こんな“へっぽこ採集者”に、よくぞ見付かってしまったものだと感謝する。 ・・・ 心の底から、感謝する。
・・・そして、ヨナグニマルバネは再び、漆黒の闇の中へ帰っていった。
その後、ヘトヘトになりながらもレンタカーに辿り着く事ができた。不幸にも宿は取っていないので、適当なスペースに車を停める。 ・・・7時間以上も日本最西端のジャングルに入っていたので、さすがに足腰が張っている。 でも今日は汗だくで、ドロだらけの格好でも充実感はある。 汚れた衣服を着替え、すぐに横になる。 今日の探索は“へっぽこ”なりに過去数年間行ってきた中でも、屈指の探索になったと思う。 ・・・ただ、その反面“へっぽこらしさ”すなわち、自分らしさをどこか見失った探索を行っていたかも知れない。自分は“ギネスやタコ採れ”に縁の無い採集者である。元々は初心者なりに自宅から車で1時間程度の林でコクワやノコを観察する程度であったが、この数年、思えば遠くへ来てしまったものだと感じる...。 「・・・自分は与那国まで来て、何を見つけただろう?」 「・・・自分自身と向き合えたのだろうか?」 少なくても、この与那国島まで来て、漆黒の闇の中でヨナグニマルバネに会って、そしてリリース出来た事で、心の中を少し洗浄できたのかも知れない。漆黒の闇での迷いは、もしかすると心の迷いであったのかも知れない。
「・・・少し疲れたかな。」 薄れいく意識の中で、ふとこんな事を思った...。 「今度ゆっくり、コトー先生に会いに来てみよう...。」 zzz
「そういや、今日は誕生日だったなぁ・・・」 zzz 成績:ヨナグニマルバネ♂×1 (確認後、リリース) |
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